海外旅行の楽しみのひとつといえば、ずばり「食」だ。ガイドブックにも載っているような有名レストランに行くも当然アリだが、地元民しか行かないような地域密着型のお店に行くのも一興だ。たしかにちょっと入りにくかったりするが、そこは勇気を出してGOである。
ということで今回ご紹介したいのは、中国は北京にある地元民御用達の小さな小さな小籠包屋さん。もちろん小籠包屋さんなので小籠包が看板メニューなのだが、なぜかサブメニューである麺類のほうが抜群に美味く、その魅惑の味は何年たっても忘れられないほどである。
・お店の雰囲気がハンパなく落ち着く!
お店の名前は「杭州小籠包」。場所は2004年サッカー・アジアカップの反日暴動場所となった「北京工人体育場」のすぐ近く。この近辺、ディスコやバーなどが増えに増えネオンはギラギラ、現在は北京でも有数のナイトスポットとして盛り上がっている。
しかし、杭州小籠包の佇まいはその逆をいく。狭くて薄汚い店内に、素朴で優しい女将さんと旦那さん。女将さんはせっせと小籠包の「皮」を作り、短パン+エプロン姿の旦那さんは、麺類などの注文が入った時にのみ働きはじめる。このゆるい雰囲気が実に落ち着くのである。
この店にやってくるお客さんたちもまた味がある。1杯のスープのみ注文し、女将さんと談笑しながらズズッと飲み、そしてサッサッと帰る若者や、ビールと小籠包のみを注文して店内のテレビをじっと見続ける親父さんなど、庶民の生活が垣間見える。
・なぜか爆裂的に美味いのが麺類
そんな杭州小籠包のメニューのなかでも、なぜか圧倒的に美味いのが麺類。おそらく麺は女将さんが作っている小籠包用の麺を代用しているのだが、この麺がとんでもなく美味いのである。やや塩味。うどんのようでもあるが、うどんではない。かといって中華麺でもない。「杭州小籠包」の女将さんの麺なのだ。
私(記者)が杭州小籠包に初めて行ったのは2004年。前述のアジアカップ反日暴動の翌日であった。まさかの事態に直面して疑心暗鬼になっていた私に対し、女将さんは「あら日本人? 大変だったね。まあ麺でも食べなさい」的なことを、優しい女将さん口調で話してくれたのだった。
そのとき注文したのは「牛肉麺」。価格は8元(約100円)である。てっきり香辛料のキツい麺類が来るのかと思いきや……なんという優しい味! ラーメンだけどラーメンじゃない、うどんみたいだけどうどんじゃない、じゃあ何なんだこれは!? 的な衝撃的な味であった。その日以来、毎日通った。あまりにも美味かったから、毎日だ。
・月日が経っても変わらない味と雰囲気
8年後の2012年。9月の中頃に「北京で未曾有の反日デモ」という情報を聞きつけ、私は再び北京へ飛んだ。そして反日デモ後、まっさきに向かったのが杭州小籠包だったのだ。外観、店内、そして女将さんと旦那さん。8年前と全く変わらない姿がそこにはあった。
「牛肉麺」の味も「肉絲麺」の味も、そして小籠包の味も……8年前と完璧に同じ。美味さも同じで、お店の暖かさも同じであった。私は女将さんに「8年前に毎日通ってたん日本人です!」と声をかけた。女将さんは「あ、あ〜!」と私の顔を見てコクコクと頷いていたが、おそらくきっと私の顔なんぞ覚えていない。
旦那さんも出てきて私の顔を見ながら笑顔でコクコクと頷いていたが、どう見ても覚えていない表情をしていた。だが、それでいい。むしろ、いい。それでこそ自然体の「杭州小籠包」なのである。もしも北京に行った時には是非とも足を運んでいただきたい。自然体の中国の人たちの姿が、そこにはある。
(写真、文=GO)
■お店データ「杭州小籠包」
住所:北京市東城区新中街4号楼
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